遺産相続、相続人の分割トラブルを避ける準備

人間である以上誰もが避けて通れない、遺産の相続という問題。遺産を巡っての兄弟姉妹、親戚どうしの「骨肉の醜い争い」は決してドラマの中だけの出来事ではありません。相続での衝突をきっかけに兄弟姉妹の縁が切れた、分割のための長期の裁判で心身を消耗した、人間不信になった、亡くなった親の家族も知らない顔が明らかになった等々、遺産にまつわるトラブルは金銭が絡むだけに深刻なもので、以降の相続人や周囲の人々の人生に大きな影響をおよぼします。事前に情報を明らかにし、相続人同士で話し合いを持ち、資産を整理するなどの準備をしっかりしておくことでトラブルや消耗、衝突を避け、あるいは和らげることができるでしょう。キーワードは「普段からのコミュニケーション」「資産の情報整理」「感情への配慮」です。

「相続人」となれる資格は民法の規定で決まっています。通常であれば配偶者と子供、せいぜい数人が相続人というケースがほとんどです。ところが被相続人(遺産を残して亡くなった方)によっては結婚と離婚を繰り返し、相続人の数が何十人もいる、という事態もあるでしょう。遺産の分割は、遺言書がない場合相続の順位ごとに頭割りで行います。例えば、2000万円の遺産があり、妻と子供4人がいた場合、妻の順位が一番高いため1/2、1000万円を妻が受け取ります。子供の順位はその次で1/2、これを同じ順位の子供どうしで分割するため1人あたり250万円を受け取ることになります。子供の数が多ければ当然1人あたりの取り分が減りますし、子供それぞれの事情(被相続人である親を介護していた、数年間音信不通だった、一人だけ学費を多く出してもらった、現在生活に困窮している等々)もあって死後に話し合いを持つと感情的なトラブルに発展しやすくなります。被相続人が健在である間にそれぞれと連絡を取り、事情や思いを聞きとって遺言書を残す、一部に相続を放棄させる、などの処置をとっておくことが重要です。

また遺産の多くが不動産であった場合も注意が必要です。現金や預貯金であれば分割はたやすいものですが、不動産では売却しない限り、その土地建物の使用を巡ってトラブルが起こる可能性が高いと言えるでしょう。持ち分が平等なのに1人だけが利用して恩恵を受けていたり、売却したいのにある1人が反対していて売却できない、といったケースが多く存在します。これについても「不動産の形で相続するか」「相続人の売却の意思は」「遺産の内の不動産と現金・預貯金のバランス」を踏まえて話し合っておく必要があるでしょう。不動産の売買は手数も費用もかかりますし、また相続人同士にトラブルがない場合も、1人より3人で分割して相続したほうが税の観点から有利である、というケースもあります。不動産や税の専門家に資産の情報を見せ、アドバイスを仰ぐのがとても有効です。

ドラマと違い、遺産相続の段になってから「愛人と隠し子がいた」と発覚するケースは稀でしょう。しかし、隠すつもりはなくとも被相続人が思わぬ財産を持っている場合もあります。切手やコインのコレクターであれば、コレクションの中に数千万円の宝が眠っているかもしれません。大昔から所有している忘れかけた土地がぐっと値上がりしていたり、株式などを所有している場合は言うまでもありません。決して財産は天から急に降ってくるわけではありませんので、生前に目録を作成しておき、情報を整理しておくと良いでしょう。とくにタンス預金など現金については、亡くなった被相続人の身近にいる人間がこっそり懐に入れてしまうトラブルも起こりえます。普段からおよそのところを把握しておけばこういったトラブルを未然に防ぐことができます。

遺言書を作成するのはトラブル防止にたいへん有効な手段です。しかし、民法に定められる方式にのっとったものでなければ「無効」とされ、かえって争議を招くもととなってしまいます。また、「遺言書を書けば必ずその通りになる」わけではありません。相続人にはそれぞれ最低法律によって確保された取り分、民法の定めた「遺留分」が存在します。これを無視した遺言を書いても、遺留分の請求の裁判を起こされることになります。こうなると弁護士や司法書士、裁判所など外部の専門家に支払いも発生して遺産が目減りし、遺族は心身ともに消耗してしまうでしょう。最悪、高齢の配偶者などがこういった争議で体調を崩してそのまま亡くなり、またその方の相続である「二次相続」が発生し、さらに事態が紛糾するといったケースも考えられます。遺言書の作成をするさいには事前にしっかりと情報を収集するか、司法書士など専門家に依頼して有効となるものを遺しましょう。また遺言書の書き換えをした場合、無効となった旧遺言書を破棄しておくことも忘れてはいけません。

相続はお金、法律、家族の関係など、とても複雑な要素が絡み合う人生の難所です。「一生に一度」とは結婚式や葬儀でよく使われる言葉ですが、相続についても同じことが言えるでしょう。「まだまだ先だから」「自分が死んだ後なんてどうでも構わない」と考えず、周囲のために備えておきましょう。上記の準備はすべて、露骨に言ってしまえば「被相続人が死ぬこと」を前提としたものです。ご本人やご家族にとって受け入れがたく抵抗のあるものですが、決して避けられないことも事実でしょう。相続する側は起居をともにした家族であるケースが多く、そのため感情的なわだかまりを抱え、相続で溜まりにたまったそれが爆発してしまう残念な事例も数多く存在します。「法律、民法で定められているから」「遺言書にこう書いてあるから」という法的なこととは別にエモーショナルな問題でもあるため、ふだんから被相続人本人や周囲がお互いにコミュニケーションを取っておくことが摩擦を防ぐ潤滑剤となります。近年、人生の終わりを綺麗にまとめ迎えるための「終活」という言葉が流行っています。終活の一環としてお墓選びや葬儀の手配と並び、遺産分割のトラブル防止の準備のため、遺言書や財産の目録作成、子供や親戚との腹を割った話し合いなど検討してみてはいかがでしょうか。